合同会社とは2006年に設立可能となった法人形態の一つです。会社というと株式会社をイメージする方が多いかもしれませんが、実は外資など有名企業も合同会社の形態をとっている会社が多く存在します。合同会社と株式会社の違いはどういったものなのでしょうか。また、メリットやデメリットにはどういったものがあるのでしょうか。この記事では、合同会社の組織形態の概要や合同会社を設立するメリットとデメリットについて紹介します。
この記事の目次
合同会社とは
合同会社とは、2006年の会社法改正により日本で設立可能となった法人形態の一つです。アメリカでは、株式会社と同じくらい普及している会社形態ですが、日本ではまだまだ認知度は高くありません。合同会社は、出資者と経営者が一致し、出資者は「社員」と呼ばれ1円でも出資した人が経営権を持つのが特徴です。合同会社では、1円出資した人も100万円出資した人も同等の経営権を持つことができます。
しかし、すべての社員が同じ権限を持っていると混乱が起きやすいのも現実です。そのため、会社の代表者として「代表社員」を選出して決定権の所在を明確化しています。ただし、複数代表制をとる合同会社もあり、必ずしも代表社員が一人というわけではありません。
法務省のデータによると2019年の合同会社設立件数は3万566件でした。5年前の2014年では1万9,808件なので急速に増えていることが分かります。
参考:法務省
登記統計 商業・法人 年次 2019年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口 (e-stat.go.jp)
株式会社と合同会社の違い
株式会社は、出資者と経営者が異なることを前提に制度が設計されています。中小企業の場合、「出資者=経営者」となるケースも少なくありません。しかし、法人が上場した場合は経営と関係ない人が投資家として株式を保有することができます。経営者と出資者が異なると、株主の意見を聞きながら経営する必要があるため、意思決定が遅くなりやすい傾向です。
一方で、合同会社は出資者と経営者が一致します。株式会社に比べると、現場で働く出資者の意思で経営方針を決められるため、スピード感がある企業運営ができる点がメリットです。
また、合同会社は議決権の割合も出資額に関係なく自由に決めることができます。株式会社の場合、出資額によって議決権の割合が決まるため、株式会社よりフレキシブルな運用が期待できるのです。
どちらも「1人で設立可能」「出資金1円以上」「有限責任」といった点は変わりません。
合同会社のメリット
年々設立件数が増えている合同会社ですが、どんなメリットがあるのでしょうか。ここでは、5つのメリットについて解説します。
1.設立費用が安い
合同会社を設立する一番のメリットは、設立費用が安いことです。株式会社の場合、設立するためには、最低でも定款認証費用(5万2,000円)と登録免許税(最低15万円)の合計約20万円がかかります(資本金2,143万円以上の会社を設立する場合には、資本金額×0.7%が登録免許税)。
しかし合同会社では、電子定款の場合は約6万円、紙定款の場合は約10万円で設立することが可能です(資本金が857万円を超える場合には資本金に0.7%を掛けた金額が登録免許税)。
このように株式会社の設立に比べて費用が安いため、初期費用を抑えたい場合には、合同会社を選ぶことがメリットとなります。
参照:国税庁
2.決算公告の義務がない
株式会社は、決算公告が毎年義務となっていますが、合同会社は必要ありません。公告方法は、官報や一般時事を扱う日刊新聞紙、電子公告のいずれかを選んで行う必要があります。ただし、公告にはコストがかかります。
また、中小企業などに適用された例は少ないものの、決算公告を怠った場合の罰則は、100万円以下の科料処分(会社法第976条第5号)が課せられることになっています。合同会社は、決算公告のコストがかからない点が大きなメリットです。
3.意思決定が速い
株式会社が企業として意思決定をする場合には、株主総会で承認を得ることが必要です。株主総会で承認を得るためには、株主総会前に取締役で会議をしたり、資料を作成したりするなど手間・時間がかかります。また、ステークホルダーの不利益を被るような経営をしないために、監査役などの役職を設置する必要もあるのです。
一方、合同会社の場合は、株主総会・取締役会・監査役会などの設置の必要はありません。経営者(社員)の意思で経営方針を決めることができます。スピード感のある経営をしたい場合には合同会社のほうが向いているでしょう。
4.有限責任
合同会社社員の責任範囲は、資本金の範囲までで済みます。例えば、1,000万円の負債を残して会社が倒産したとしましょう。資本金が100万円の場合、社員の弁済義務は100万円で済みます。ちなみに、株式会社も有限責任という点では同じです。
5.役員の変更登記が必要ない
合同会社は、変更登記がない点もメリットといえるでしょう。株式会社の場合、取締役は2年ごと、監査役は4年ごとに変更登記が必要です。たとえ、同じ人が重任するにしても変更登記は必須で、登記には費用・手間がかかります(ただし、上場していない会社はそれぞれに10年の任期に変更することが可能)。
合同会社のデメリット
では、合同会社を設立する際のデメリットはどんなものがあるでしょうか。合同会社の主なデメリットを3つ解説します。
1.信用度が低い
日本では、株式会社の形態をとる法人が圧倒的に多いため、合同会社という組織形態について、よく理解できていない人も多い傾向です。その結果、「取引をしていいか不安」と感じる取引先が出てくる可能性もあります。知名度のある合同会社の場合は問題ありませんが、合同会社の認知度が低いため、従業員の採用がしにくくなるリスクもあるでしょう。
2.上場できない
合同会社は上場できません。そのため、上場したことで受けられるメリットは享受しにくくなります。例えば、知名度の上昇や事業の拡大、資金調達のしやすさなど、株式会社に比べて低いものになる傾向です。
3.社員同士が対立するリスク
合同会社は、出資利益を出資額と無関係に配分できることがメリットです。しかし、逆を言えば利益配分を巡る対立が社員同士で起きやすくなるのがデメリットです。社員同士が対立して会社を辞めることになれば、出資していた額を減らすことにもなりかねません。
資本金の金額は、融資を受ける銀行や取引先からの評価基準にもなります。社員を増やしすぎると、対立するリスクも増えるので注意しましょう。
合同会社設立の流れ
それでは、合同会社を設立する具体的な流れについて説明します。
①商号(会社名)等を決める
合同会社を設立すると決めたら、まず会社名(商号)を決める必要があります。会社名の最初か最後に「合同会社」と付けましょう。その他にも、事業目的や本店所在地、資本金額、社員構成、事業年度を決めます。
②定款の作成
定款とは、企業を経営するために定める根本的なルールです。定款に基づいて合同会社が設立されるため、基本的な設立事項のほか、公告(合同会社に義務はない)、任意退社、社員の責任、損益の分配などを追加します。
③登記用書類の準備
定款を作成したら登記に必要な書類を準備します。社員が法人ではないケースで、登記に必要になる書類は以下の通りです。
- 定款
- 代表社員、本店所在地及び資本金を決定したことを証する書面
- 代表社員の就任承諾書
- 資本金の払込みがあったことを証する書面・通帳コピー
- 資本金の額の計上に関する設立時代表取締役の証明書
- 職務執行者の選任に関する書面
- 合同会社設立登記申請書
- 代表社員の印鑑証明書
- 合同会社の印鑑届書
- 委任状:司法書士などに登記を依頼する場合
合同会社設立登記申請書には、登録免許税の収入印紙を添付する必要があります。
各書類のサンプルはこちらで確認してください。
Microsoft Word – 合同会社設立登記(代表社員が法人でない場合)記載例 (moj.go.jp)
参考:法務省
合同会社設立登記申請書(代表社員が法人でない場合):法務局 (moj.go.jp)
④法務局へ登記申請
書類の準備ができたら法務局へ登記を申請します。登記申請手続きは、設立する会社の「本店所在地」を管轄する法務局で行います。
⑤各種手続き
合同会社設立後にすべき手続きは、以下の通りです。
- 法人設立届出書の提出:都道府県税事務所、市区町村役場、税務署に提出
- 青色申告承認申請:事業開始から2ヵ月以内に申請
- 給与支払事務所等の開設届出書の提出
- 労働保険関係の届出:労災保険は労働基準監督署、雇用保険はハローワークへそれぞれに手続きを行う
- 社会保険の加入手続き:従業員を雇用した場合、5日以内に年金事務所で手続きを行う
- 印鑑証明書・登記簿謄本の交付:法務局窓口で交付
有名企業にも多い合同会社
「合同会社=オーナー企業」というイメージから、中小企業に多いイメージを持たれるかもしれません。しかし、外資系の大手有名企業が株式会社から合同会社へ形態を変更するケースが増えています。
Apple Japan合同会社
Apple Japan合同会社は、2011年に株式会社の形態から合同会社へ組織変更をしています。
グーグル合同会社
グーグル合同会社も2016年にそれまでの株式会社の形態から合同会社へ組織変更をしています。
アマゾンジャパン合同会社
アマゾンジャパン合同会社も2016年に株式会社から合同会社へ組織変更をしました。
ユニバーサルミュージック合同会社
ユニバーサルミュージックの日本法人のユニバーサルミュージック合同会社は、2009年に株式会社から合同会社へ組織変更しています。
これらの大企業が、なぜ合同会社の形態をとっているのでしょうか。具体的な理由は、公表されていませんが、冒頭のメリットで解説した「株式会社の義務である決算公告の義務がない」「株主を配慮した経営をする必要がない」といった点をメリットに感じている可能性が高いでしょう。
決算の公告は、コストがかかるだけではなく、決算結果を見た株主・取引先・従業員などのステークホルダーに影響を与える可能性があります。例えば、決算が赤字となった場合、公表されてしまうと取引先が取引を増やすことをためらうかもしれません。
また、保守的な株主が多い場合には、新しい市場の開拓を反対されるなど、攻めの経営ができなくなる可能性もあります。株式会社にとって、投資家から直接資金調達ができる点はメリットです。しかし、上述の外資系企業は海外本社からの資金調達ができたり、すでに実績・知名度があったりするため、金融機関からの融資はしやすい可能性があります。
資金調達がスムーズにできる環境が整っているのであれば、わざわざ株式会社という組織形態にこだわる必要はありません。合同会社のほうが合理的な経営ができると考えて、組織変更したことが考察できます。
起業のハードルが低く、経営の自由度が高い合同会社
合同会社は、設立費用が株式会社に比べると抑えられるため、起業のハードルが下がります。また、株式会社のように株主に考慮した経営をする必要もありません。そのため、経営の自由度が高くなる点もメリットです。「出資者=社員(経営者)」といった組織形態のため、経営者が望む企業運営が期待できます。
一方で、「社会的な信頼が得られにくい」「上場できない」「利益配分についてもめる可能性がある」などは、デメリットです。途中で株式会社として組織形態を変えることもできますが、将来的に上場を視野に入れるのであれば、最初から株式会社の形態にしたほうが良いでしょう。
利益配分についてもめることのないように、法人設立時には社員同士でよく話し合う必要があります。
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