市場調査(MR,MerketResearch,マーケティングリサーチ)は、企業のマーケティング戦略の根拠となる指標を手に入れるためのさまざまな分析を指します。この記事では、何のために調査を行うのか?どのように行うのか?具体的に何を行うのか?の順に、市場調査の基本的な考え方をまとめていきます。
この記事の目次
why:なぜ市場調査を行うのか?‐マーケティング戦略と3C分析
『今後生き残れない組織』の共通点をまとめた『失敗の3C』なるユニークな論説を展開した人が居ます。クリーブランド大学のロバート・ハートレー教授です。
《ハートレー教授の失敗の3C》
- Complacency(自己満足)
- Conservatism(保守主義)
- Conceit(思い上がり)
残念ながらこの失敗の3Cに当てはまってしまう状態にある組織にも、大体の場合マーケティング部門は存在し、一定の市場調査は行われていることが殆どではないでしょうか。
- 【自己満足】…導きたい結論ありきで、恣意的なデータの集め方をする
- 【保守主義】…『何も変えないほうがよい理由』を補強するためのデータを集める
- 【思い上がり】…良い成果だけに焦点を当て、自分達の過去の勝利を確認するためのデータを集める
どうやら、『どこでどのように集めるか』よりも、『何のために集めるか』の質が大切であるように感じられますね。
閑話休題、今回の本題の詳細部分に入っていきましょう。今回扱う『本物の』3C分析(戦略的三角関係、Customer,Competitor,Company-顧客(クライアント)、競合、自社‐の考え方)は、日本でもっとも有名なコンサルタントの一人である大前研一さんが1980年代の初頭に提案した、事実整理のための枠組みです。企業の戦略、事業の戦略、商品開発の戦略…など、さまざまなサイズの戦略を組み立てる際に活用されます。
- 何のために市場調査をするのか?→マーケティング(市場づくり)のためです。
- 何のためにマーケティングをするのか?→成功要因を達成するためです。
- 成功要因はどのように定められるか?→これが戦略です。
組織やビジネス・業務の戦略を練り上げるとき、そして、実戦の舞台で戦術や作戦が戦略の掲げる目的の対策として噛み合っているのかどうかを確認するとき、両方のタイミングで(つまり、ビジネスにおいて常に、ということ!)正確な情報収集が求められます。
図中のVRIO分析、PEST分析、ファイブフォース分析についても簡単に解説しておきましょう。まず、VRIO分析とは、自分たちの組織・ビジネスが持っている経営資源について深く理解しようとするとき、有効になります。
- V(Value)…経済価値
- R(Rarity)…希少性
- I(Inimitability)…模倣困難性
VRIO分析のコツ…V-R-I-Oの順で分析することです。
V-R-I-Oの『順番』にYes/Noでジャッジしていくと、経営資源の『強さのレベル』が明確化するのがVRIO分析の優れたポイントです。『総当り戦』のやり方で行わず、順列で行うことが重要です!
そして、VRIO分析の各項目をジャッジしようとするとき、『なぜ○だと言えるのか?』の理由が並ぶはずです。この理由の一つひとつが、自社のストロングポイントの発見になっていくことでしょう。
また、PEST分析は『時流の文脈』が今、どのようになっているかを分析するために有効な4つの観点を示します。
- P(Politics)…政治的要因。関連法の改正、政権の交代や政策の転換など
- E(Economy)…経済的要因。物価や株価、経済成長、消費動向など
- S(Society)…社会的要因。世論や世相の動き
- T(Technology)…技術的要因。新技術や社会インフラの成長など
世の中にどのようなムーブメントやトレンドがあるかについて、現象面のひとつふたつ前のステップを考え、読み解き進めるための『視点の切り替えスイッチ』として有効な分析手法です。
上に掲載した4重ベン図に『ピンを立てる』ように、背景を探ることもできますね。
最後に、ファイブフォース分析ですが、ハーバード大学院のマイケル・ポーター教授の提唱したファイブフォース(5つの要因)分析は、主な目的として『業界』を分析して事業戦略を紡ぎ出すための思考ツールです。『今、私たちが、どのような脅威にさらされているかを明らかにする』という視点で分析を進めていきます。
1.買い手(顧客)の交渉力
簡単に言えば、自社の顧客と自社のどちらが価格決定の主人公になっているか、ということです。ユーザーの交渉力が強ければ、利益率を下げざるを得ないという脅威です。
2.売り手(供給企業)の交渉力
サプライヤー(仕入元)となる人たちの交渉力が高い場合、取引条件が不利になり、収益性が下がるという脅威です。
3.新規参入業者の脅威
事業の参入障壁の高さはどこにあるか?新規参入がどれほど予測できるか?自社のブランド力を加味して、それがどれほどの脅威になり得るか?ということです。
4.代替品の脅威
どのような商品やサービスに取って代わられるリスクがあるか?という脅威です。イノベーションや異業種連携が重視される時代ですから、登場を予測できなかったメディアやサービスにシェアを根こそぎ奪われる事例も珍しくありません。
5.競争企業間の敵対関係
既存同業他社との敵対関係がどれほど激しいか、それがどのような脅威になるか、ということです。市場の成熟度(業界の成長性に反比例する)、同業他社の数、差別化できるポイントの数などとの関係が深い部分ですね。
調査の意図と枠組みが決まったらいざ、実際の市場調査の実施です。次項から、データを集めるための具体的な手順を追っていきましょう。
how:どのように市場調査を行うのか?
実際に市場リサーチ業務の中で扱う『データ』には、どのようなものがあるでしょうか?
『市場調査に着手する』と言った際、上の図で言う1次データ(調査目的のために新規に収集されるデータ)を獲得するためのプロセスが、まずイメージされるのではないでしょうか。顧客のニーズや反応を、情報として集めるような場合です。
しかし、1次データの収集を企てる前に、必ず押さえておきたいことがあります。市場調査は『戦略を生み出す』という目的のためにあります。つまり、市場調査のためのコストは間接的な投資です。投資行為を惜しむべき部分ではありませんが、余分な投資は避けたいものです(余分があるなら少しでも、直接的な投資に回したいですよね)。
そのためには、活用できる内部データを存分に活用し、内部データでは得られない重要な判断基準を得るために外部データや新規調査を行うということが、原則として理解され、徹底される必要があります。そして、調査済の外部データを購入する方法と、新規調査を立ち上げることの費用対効果も、十分に比較検討される必要があるでしょう。
以上を踏まえつつ、必要な1次データを集めるために『何をするか』を、次項で確認していきましょう。
What:1次データの収集活動
データ収集の方法は大きく分けて3種類。質問・観察・実験です。いずれも一長一短、それぞれ特徴が異なります(詳しくは図を参照)。
- 質問法(アンケートやインタビュー)‐消費者に直接たずねる
- 観察法(市場環境を見てとらえる)‐消費者の行動や流動状態を監視して探る
- 実験法(要因と要因の関係を追求する)‐要因を操作し、別の要因への影響を測定する
データ品質に万全を期そうとするとき、各々の短所をカバーするために他の方法を組み合わせることが効果的です。例えば、『観察法』の『原因や背景となる要因が調査者側の推測になる』という短所をカバーするために、事後インタビューを実施することによって消費者の生の声を拾い上げることで推論の確度を高める(質問法)、推論を検証するためのテストケースを企画する(実験法)などのフォローアップが考えられます。
調査対象の範囲をしぼりこむ考え方
調査を実施する際、母集団をどのように設定するかを明確にする必要があります。母集団すべてにわたって調査を実施することは、多くの場合現実的ではありません。例えば、すべての日本人の三十代男性にアンケート調査を実行することは、費用だけを考えても不可能ですよね。そこで、母集団の中からできるだけ偏りが小さくなるように、一定数を抽出することが必要になってきます。
学術的にはこの抽出された対象者を『標本(sample)』、標本を母集団から選び出す手続きを『標本抽出(sampling)』と呼んでいます。標本抽出のもっともシンプルな方法は『無作為抽出法』(完全なランダム)なのですが、『ランダムに選んだ結果、偶然偏りが生じてしまう』ことはよくあることです。
そこで、より偏りを避けるために工夫された抽出法が、『層化抽出法』です。層化抽出法とは、母集団がいくつかの異質なものから成り立っているとき、まず同質なもの同士をまとめた幾つかの層に分けて、『各層の中から』無作為抽出法で抽出する方法のこと。『無作為よりも無作為的』に選ぶための方法です。
企業内マーケターの生産性とは?
1次データを収集するだけでも、考慮すべきポイントがたくさんあることがわかりますね。本記事では割愛しますが、集めたデータには次に集計と分析を行うタスクも待っています。
企業内のマーケティング担当者が、『データを集めるために何をすべきか』について深く理解しておくことのメリットは何でしょうか?データの妥当性・正確性を見抜くスキルにつながることと、質の高い内部データを恒常的に蓄積する習慣につながることです。
そして、自分自身の時間を投資するポイントは、(データを集める・まとめる時間)<(データを活用し戦略に落とし込む時間)の図式にあると言ってよいでしょう。
まとめ
データは「日頃から貯めておくのが、最もコストパフォーマンスが良い、専門の業者から購入するのが、次にコストパフォーマンスが良いものです。そして、データを活用して戦略を練り上げる仕事は、調査の専門業者にアウトソースすることが難しいものです。マーケターは市場調査の具体的な方法に関する知識だけでなく、市場調査のwhy―戦略を扱う専門性を併せて磨いておきたいですね。
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