越境ECとはインターネットを介した国境を越えた商取引のことですが、売上が減少した企業が新たなる活路を見いだすために活用するケースが増えています。
では、越境ECはどのように始めればいいのでしょうか。本記事は、越境EC未経験の企業や個人を対象に、越境ECの基本や実際の始め方、注意点などについて解説します。
この記事の目次
越境ECとは?
越境ECとは、文字通り国境を越えたEC(Electric Commerce:電子商取引)です。自社ウェブサイトで自社製品を販売したり、ネットのショッピングモールに出店したりする企業が多い傾向ですが、国内の消費者に加えて海外の消費者にも販売するケースが増えています。
なかには、最初から海外の消費者へ向けたウェブサイトを立ち上げ、国外での売上獲得を目指すケースもあります。どの形を採用するにしても、国外での売上獲得を目指すEC全般を「越境EC」と呼んでいいでしょう。
越境ECの市場規模
では、実際に越境ECの市場規模はどれくらいなのでしょうか。ここでは、日本国内、対アメリカ、対中国のEC市場をそれぞれ見てみましょう。
国内ECの市場規模
経済産業省がまとめた『令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国債経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)』によると、2019年における日本のBtoC-EC市場規模は、19兆3,609億円で、前年比+7.65%です。
特に、物販系分野のEC市場規模は10兆515億円と割合が高く、全体の半分以上を占めています。また、メルカリやヤフオクといったオークションなどのCtoC-EC市場規模は1兆7,407億円で、前年比+9.5%でした。
さらに、BtoB-EC市場規模は352兆9,620億円で、前年比+2.5%。産業セクターでは、「小売」「建設・不動産業」「食品」の伸びが堅調です。
対アメリカ、対中国の越境EC市場規模
越境ECの市場規模ですが、アメリカと中国に対するBtoC-EC市場では、日本から中国への販売額が1兆6,558億円、日本からアメリカへの販売額は9,034億円です。一方、中国から日本への販売額312億円、アメリカから日本への販売額2,863億円と、対中国および対アメリカともに大幅に日本の「輸出超過」。特に、日本から中国への販売額が相当の規模に達していることがわかります。
中国とアメリカのBtoC-EC市場規模
中国とアメリカのBtoC-EC市場規模ですが、2019年において中国1兆9,348億米ドル(約210兆8,932億円)、アメリカ5,869億米ドル(約63兆9,721億円)です。中国がアメリカの3倍以上の市場規模を有する、世界最大のBtoC-EC国家となっています。
中国は、伸び率もすさまじく2018年度の約1兆5,200億米ドル(約165兆6,800億円)から約27.3%も増加。中国のBtoC-EC市場規模は、2023年には約4兆1,000億ドル(約446兆9,000万円)規模にまで成長すると予想されています。
※日本円は、すべて1米ドル109円として換算
越境EC市場拡大の背景
中国を筆頭に世界規模でEC市場、越境EC市場が拡大していますが、その背景には何があるのでしょうか。
モバイルコンピューティングの世界的な普及
まず、考えられるのがスマートフォンなどによるモバイルコンピューティングの世界的な普及です。特に、中国やアメリカなどのECが盛んな国におけるスマートフォンの普及の影響が大きいと考えられます。
ちなみに、2020年時点のスマートフォンの普及率は、人口約14億3,932万人の中国が63.4%、人口約3億3,100万人のアメリカが81.6%。スマートフォンが普及することで、パソコンを持たない人、使えない人がECを利用できるようになったのです。
決済手段の多様化
ECにおける決済手段が多様化したことも影響していると考えられます。特に、EC事業者がPayPalなどを利用することで、簡単にクレジットカード決済システムを導入できるようになったことが大きいでしょう。
さらに、対中国の越境ECにおいては、Alipayや銀聯(ぎんれい)カードが広く普及した影響も大きいようです。
インバウンド客の増加
新型コロナウィルスのパンデミックにより、2020年以降はインバウンド客が激減してしまいました。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大前となる2019年時点で、年間訪日外国人数は約3,188万人と過去最高を記録。特に、中国からの訪日客数が959万4,300人と多く、訪日客のほぼ3人に1人が中国人でした。
中国人訪日客の多くは、家電製品や化粧品、医薬品、食品などを「爆買い」し、多くのドラッグストアやスーパーマーケットの商品棚を払底させました。そうした中国人訪日客の多くが、多くの商品のリピートユーザーとなり、帰国後も越境ECで購入しているとされています。
世界的な巣ごもり需要の増加
新型コロナウィルスのパンデミックは、一方でいわゆる「巣ごもり需要」を増加させています。先日発表された米Amazonの直近四半期決算によると、同期間中の売上高は1,085米億ドル(約11兆8,265億円)で史上最大を記録、前年同期比を大幅に上回る+44%でした。
同様の傾向は、日本や中国などでも見られ世界的な巣ごもり需要の増加がEC市場、越境EC市場拡大をけん引しているものと考えられます。
越境ECの始め方
では、実際に越境ECを始める場合、どうすればいいでしょうか。
自社サイトでの販売
まず、考えられるのが自社サイトでの販売。ゼロベースでショッピングカートなどを構築するよりも、近年はShopifyのようなECサイト構築プラットフォームを使うケースが増えてきている傾向です。Shopifyは、多言語対応機能やPayPal、Apple Pay、Google Payといった決済システムもあらかじめ利用できECサイトのスムーズな立ち上げができます。
現地モールへの出店
次に考えられるのが、現地モールへの出店です。中国の現地モールでは、Tmall(天猫)や京東商城などが有名ですが、Tmallでは中国外の越境EC業者を対象にしたTmall Global(天猫国際)というサービスが用意されています。
また、京東商城では、日本製品を専門に扱う「日本館」というコーナーも用意されていて、日本企業が簡単に出品できる仕組みです。
Amazon、eBayへの出品
特に、アメリカの消費者へ向けた越境ECを行う場合、Amazonに出品するのも一つの方法です。Amazonでは、商品の在庫管理から発送まですべて代行してくれるFBA(Fulfillment by Amazon)というサービスも利用できます。
手数料は必要ですが、ある程度の販売数が見込める商品の場合、利用を検討してみてもいいかもしれません。また、レアな商品やニッチな商品をアメリカで販売する場合、アメリカ最大のオークションサイトのeBayに出品してテストすることをおすすめします。
eBayは、通常のオークションのほかに、販売に特化した「eBayストア」という仕組みも提供しているので、コンスタントに売上が上がり始めたら切り替えが可能です。
越境EC代行業者の利用
社内に、越境ECの知識や経験を持つ人材がいない場合は、越境EC運営代行業者の利用を検討してもいいかもしれません。越境EC運営代行業者は、それぞれに得意とする国や市場、提供するサービスの内容や料金体系なども多岐にわたるため、十分にリサーチしてください。
越境ECの注意点
では、実際に越境ECを行う際の注意点を挙げます。
各国の法律を順守する
中国では、2019年1月1日から「中国EC法」が施行され、中国外のEC事業者が中国国内で商品を販売する場合、指定の認証などを受ける必要があります。また、アメリカへ食品や化粧品などを輸出する際は、FDA(米国食品医薬品局)が定めるルールに従い、代理人指定や施設登録などの手続きを行うことが必要です。
当然、越境ECを行う国や取り扱う商品の種類などによって適用される法律が変わってきます。また、物によっては輸出規制の対象となったり、輸出そのものができなかったりする場合も少なくありません。越境ECを実際に始める前に、JETROのウェブサイトなどで十分なリサーチを行い、法律やルールなどを守ることが必要です。
為替差損に注意
越境ECを行う際には、為替差損に注意することが必要です。当然、越境ECにおいて売買の決済は、当該国の現地通貨で行われるため、円高になると為替差損が生じるリスクがあります。差損の程度によっては、販売で得た利益を失う可能性も否めません。
特に、在庫の回転が遅く、仕入れてから売れるまでに相応の時間を要する商品などを扱う際は注意が必要です。
パッケージやラベルの現地語対応
取り扱う商品のパッケージや、ラベルを現地語に対応させることも重要です。特に、食品や化粧品などについては、各国の行政機関が定めるルールを順守する必要があります。アメリカの場合、FDAが非常に細かいルールを定めています。
アメリカのAmazonでは、往々にしてラベルが日本語のままの化粧品が売られていますが、本来はルール違反です。FDAは、一方でそうしたルール違反に対するペナルティもしっかりと定めています。
プロモーションの重要性
実際に、越境ECを開始したら、同時に宣伝広告などのプロモーションを行うことが重要です。一般論として、出店したり販売を開始したりしただけで商品は売れません。消費者にその存在を知らしめ、認知や関心を促し、購入へ向けて誘導する必要があります。
ある程度のリソースを投じて何らかのプロモーションを行わないと、商品を売ることは至難の技です。
クレーム対応をしっかりと
越境ECを展開するうえで避けて通れないのがクレーム対応です。特に、Amazonに出品する場合、クレーム対応を迅速かつ丁寧に行わないとレビューでマイナス評価をされてしまいかねません。Amazonにおいてユーザーは、レビューの星の数と内容を熟読して購買の意思決定をするとされています。
レビューでのマイナス評価は、売上に直接打撃を与えてしまうでしょう。
越境ECで海外に活路を
少子高齢化が進む日本では、将来的な市場の拡大はあまり期待できません。日本の多くの企業が海外に活路を見出さなければならなくなる今後、越境ECはさらに存在感を増してくるでしょう。実際に、越境ECを開始するに際しては、既述したポイントを確認しつつ、自社に最も適した方法で無理なく行ってください。
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文・前田 健二
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスでビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年、経営コンサルタントとして独立。事業再生、アメリカ市場進出、コンテンツマーケティングなどを中心にコンサルティングを行っている。米国のベストセラー『インバウンド マーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。
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