事業会社が市場における優位性を勝ち得るには、「ブランディング」が欠かせません。しかし、ブランドの構築は一朝一夕にして成しえるものではなく、地道な企業努力の積み重ねが必要です。今回は、世界で最もコーポレートブランディングに成功した企業ともいえるAppleのブランド構築を分析していきます。
この記事の目次
Appleに学ぶブランド戦略
ブランドとは、自社の商品やサービスを、他社のそれらと区別するための考え方を指します。ブランドのマネジメントは、経営そのものと言ってもいいでしょう。経営者の伝えたい思いを、顧客との接点である商品デザインに込めて、顧客とコミュニケーションを取る行動が、コーポレートブランディングの基本です。
Appleのブランディングの歴史は、多くの示唆に富んでいます。Appleの新製品の発売日には、ショップの前に前夜から人々が行列をなすのはあたりまえの光景です。
2003年11月27日には東京に日本初の直営店がオープンしました。初日は雨の中大行列ができたことを記憶している方もいるでしょう。Apple store はもとより、Appleの新製品が発売される日には各地の家電量販店に、熱狂的なファンが列をなします。
このような現象は、偶然によるものでしょうか。
初代iMacが発売されたのはショブズがAppleに復帰した直後の1998年のこと。スケルトンなデザインはパソコンや電気製品というイメージを翻すほど革新的なものでした。その後、ブルーベリー、ストロベリー、ライムなど多色展開を行い、強烈なデザイン性を印象付けます。これは、記録的なヒット商品となり、当時経営危機がささやかれていたAppleの復活に大きく寄与しました。
そして、2001年に発売されたiPodもまた、Appleのブランドを象徴する製品と言えます。iPodは言わずとも知れた大容量ハードディスクドライブ型携帯音楽プレイヤーのこと。発売当社は高価格帯であることなど、売れ行きを疑問視する声も聞かれましたが、音楽配信サイトのiTunes Storeの浸透に伴い、売り上げを伸ばしていきます。音楽産業の在り方を変えた一台と言っても過言ではないでしょう。
最新機能を洗練されたシンプルなデザインの筐体で包んだiPhoneは、感性に訴える「マルチタッチ」で多くのユーザーの心をつかみました。iPadも同様です。ジョブズがiPhoneとMacBookの中間となるものと位置付けたように、スマートフォンとパソコンの中間的なアイテムとして、教育現場などさまざまな場所で用いられています。
常に進化し続けるデザイン・機能はAppleのブランド力の象徴ともいえるものです。機能とユーザーインターフェイスとの最適な融合を目指した結果、「Apple製品」は、市場において確かな優位性を確立しました。
ユーザーの感性に訴えるデザイン
Appleの共同設立者の一人であり、再建の立役者である故スティーブ・ジョブズ。
一度はAppleを去ったものの、1997年にCEOとして同社に復帰しました。当時、Appleは業績悪化のため、厳しい状況下にありました。ジョブズは打開策を模索。復帰後、最初の会議で社員たちにこう指摘しています。
The products suck! There’s no sex in them anymore! Start over. (プロダクトが最悪だね。ちっともセクシーじゃない!最初からやり直してくれ!)
彼はデザインを、単なる差別化の手段とは捉えていませんでした。デザインする際に重要なことは、「ユーザーが製品を使用してどう感じるか」であると主張。iMacの開発時には、市場シェアや処理速度にこだわるのではなく、ユーザーがその商品に触れた時、どう感じるかにウェイトを置いたのです。
また、iPhoneのデザインを行った際には、「湖からディスプレイが浮かび上がってくる」というイメージから、ディスプレイを重要視するクリエイティブ・プロダクトデザインが生まれたといいます。
このように、ユーザーの感性や感情に直接訴えるデザインは、Appleのブランディングに大きな役割を果たしました。
ジョブズはデザインコンセプトの中心に「シンプルさ」を置いたのです。「シンプルだからこそ仕事で利用しやすく、あらゆる年代層にも受け入れられやすい」という考え方に基づいているのです。
Appleに見るマーケティング戦略
マーケティングには、「4P理論」と呼ばれる考え方があります。 4Pとは、下記の4つの頭文字を取ったものです。
- Product(製品):顧客に提供する商品やサービスを作り出すこと。
- Price(価格):価格をどう設定するか。
- Place(流通):どのような手段と経路で、商品を顧客に届けるか。
- Promotion(販売促進):商品の存在や特徴を、ユーザーにどのように伝えるか。
Appleはこの4P理論を踏まえ、独自の戦略を展開しました。
「製品」においては、今までにはない、感覚的な操作性を追求したインターフェイスを搭載。「価格」は、世界統一価格とし、通信定額制プランを標準で採用。「流通」では、アップルストアにおける優先販売を行ったほか、iTunes Storeによるコンテンツの販売を行っています。
特に着目すべきはプロモーション(販売促進)です。次項ではAppleのプロモーションについて重点的に見ていきましょう。
Appleのプロモーション
あなたがApple製品を最初に購入したきっかけはなんだったでしょうか。
「ネットで話題になっていたから」
「ステータスとして持っておきたい」
「使いやすいから」
「かっこいいから」
さまざまな動機があるでしょう。Appleではその動機を誘発するプロモーションを展開しています。
Appleはなぜネットで話題になるのはなぜでしょうか
人は秘密が気になる生き物です。Apple製品にはうわさがつきもの。「〇月には新製品が出るらしい」Apple製品に関しては、たびたびそういったうわさが出回ります。しかし、Appleでは実際の発表まで、商品に関する情報を一切明らかにしません。さまざまなうわさが飛び交い、メディアやブロガーもそのうわさに飛びつきます。信ぴょう性はさておき、うわさがうわさを呼び、Appleの新製品はますます気になる存在となっていくでしょう
「話題の商品を手に入れる」、顧客は「Apple製品を手に入れること」が第一の目標となるのです。
なぜApple製品を持つことはステータスなのでしょうか
Apple製品はご存知の通り安価ではありません。iPhoneを例に挙げれば、新製品は10万円前後。安価なパソコンが2台買える金額です。商品によっては安ければ売れるというものも多々ありますが、あえて高価であることがステータスの象徴となり得ます。
なぜApple製品は使いやすいのでしょうか
Apple製品、特にiPhoneやiPadは、直感的な操作性がウリとなっています。所有している方はご存じでしょう。これらの製品には説明書というほどの詳しい説明は入っていません。初期設定もすべて画面で表示され、指示通りにすれば完了します。そのほかの動作もほぼ直感的にわかるようにプロダクトされているのです。
また、「他社の製品とは互換性がない」のもApple製品ならではです。以前はこれは両刃の刃でもありましたが、現在では顧客の囲い込みという観点で大きな成功要因です。他社の製品への離脱を防ぐためにAppleはバージョンアップを重ねます。常によりよい製品を作り続けることで、他社への離脱を防いでいるのです。
Apple製品はなぜカッコイイのでしょうか
前出の初代iMacをはじめ、Appleの製品はプロダクトデザインにこだわります。シンプルでありながら洗練された製品自体のデザインはもちろん、パッケージにまでApple製品はこだわります。
無機質な段ボール箱から製品を取り出すのとApple製品をパッケージから取り出すときを、比較するとどうでしょうか。パッケージ自体も洗練されたデザインであるApple製品に軍配が上がるのは当然でしょう。開封するときのワクワク感をSNSやブログで伝えるユーザーも少なくありません。
自社の魅力を最大限に伝えるためにApple StoreというApple製品のみの店があることも商品の価値を最大化する要因です。その他、最近では教育現場への展開にも力を入れています。お膝元シリコンバレーのとある高校ではすべてのパソコンがMacでした。当然、互換性を考えると、家庭でもMacを使うことになります。
ユーザーの感性に訴えかけるApple
Appleは、iMacやPowerBookG3などの新製品を市場にリリースした際、「Think Different」というキャッチコピーとともにキャンペーンをはりました。
コピーが意味するのは、「固定観念を壊し、新しい発想でコンピュータを使用する」こと。イメージキャラクターには、アインシュタインやピカソ、ガンジーなどの時代の先駆者の画像を使用。Apple自体が時代の先駆者であることをイメージしています。
Appleがブランディングに成功し熱烈なユーザーを獲得した裏には、ユーザーの感性に訴えかけるデザインと、考え抜かれたマーケティング戦略がありました。また、製品だけではなく、パッケージ(包装)デザインにもこだわりを見せ、Apple製品を取得すること自体に高揚感を持たせる演出にも成功しています。
Appleは最新機能にデザイン性を持たせることにより、「機能とインターフェイスとの最適な統合」という明確なコンセプトを打ち出し、ゆるぎないブランドを作り上げたのです。
Appleが作り上げたパソコンやiPhoneなどという革新的なツールは、いまや生活に欠かせないものとなっています。プロダクト自体だけでなく、その開発ストーリーや、故スティーブ・ジョブズの哲学・アイデンティティにも惹かれているのかもしれません。
文・デファクトコミュニケーションズblog編集部
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