ビジネスを語るうえでマーケティングは欠かすことのできない言葉となっています。では、マーケティングの誕生はいつなのでしょうか。マーケティングの誕生から現在まで、そして、マーケティング史最大のパラダイム転換を紹介します。
この記事の目次
マーケティングの誕生はいつ?
マーケディングが誕生したのは19世紀末から20世紀初頭のアメリカといわれています。マーケティングという概念とそれが生み出す一連の活動がこの時代の市場で生まれたとされています。メールやインターネットどころか、「電話」が発明されてからアメリカ社会を網羅するまでの時期と、ほとんど重なるくらい昔の出来事です。
当時のアメリカといえば、フロンティア、ワイルドウェストなどの言葉に象徴される、未曾有の消費経済の拡大が巻き起こっている真っ只中でした。さまざまなニュービジネスが誕生し、ほとんど無限に拡がり続ける市場の消費需要に応えるため、アメリカの産業界全体で、生産量や供給力が飛躍的に向上していった時代です。
フロンティアの時代が収束の時期を迎え、消費の伸びが頭打ちになると、供給が需要を上回る時代がやってきます。
『作れば必ず売れる』時代において、『どのようにすれば安く、大量にものを作ることができるか?』ということばかりを考えていた開発・製造業者たちは、やがて、
どこで、誰が、どんな商品を欲しがっているのか?
を、知りたがるようになりました。
そうした情報を入手することが、彼らのビジネスを継続するための必要条件となったのです。『どんな商品を製造し、どこへ持って行けばたくさん売れるか?』を真剣に考える過程で、彼らは一つの考え方にたどり着くことになります。
『そこに置けば売れる場所』を、意図的に、戦略的に作り出す
これが、マーケティングという概念が生まれた時代の背景です。自然発生的に生まれる需要に自社の運命を任せるのではなく、詳細なデータや現場の情報などに基づき、自社の需要は自ら作り出していこうという姿勢へ転換したのです。つまり、『市場や顧客が求める商品を作る』という考え方への転換です。
いかにも、フロンティアの発想ですね。現代のマーケティングが単なる市場調査ではなく、市場開拓を目的とした開発事業であることは、生まれた頃から変わっていないのです。
予実管理や、PDCA(Plan, Do, Check, Action)といった今となってはおなじみの概念から、後代に現れるマス・マーケティング、ダイレクト・マーケティング、あるいはブランドマネジメントといった概念まで、およそ今日の経営に利用される理論やコンセプトのほとんどのものは、マーケティングという発想から生じたビッグ・バンの余波によって生まれた数々の小宇宙のようなものだと言っていいでしょう。
マーケティングとは
では、ここでマーケティングについておさらいしてみましょう。マーケディングという言葉には各所でさまざまな定義がなされています。
【マーケティングとは、効率化と差別化を基軸にしながら、市場需要(顧客ニーズ)を喚起・開拓し、さらには独占的(支配的)な市場の獲得を目指して、しかけ(戦略)作りを行っていく一連のプロセスである】
この言葉は、『マーケティング・ストラテジー』(2000・中央経済社・小木紀親)からの引用ですが、これは一体どういう意味なのでしょうか?
また、米国マーケティング協会では、マーケティングを以下のように定義しています。
【マーケティングとは、顧客、クライアント、パートナー、社会全体にとって価値あるオファーを創造し、コミュニケートし、デリバーし、交換するための一連の活動、組織、プロセスのことである】(2017年度改定版)
米国マーケティング協会によるマーケティングの定義を、我々はどう理解すべきなのでしょうか。「マーケティング」の原則を基軸に、その本質について見ていきましょう。
マーケティング史最大のパラダイム転換
20世紀半ばころまでのマーケティングは、「経営者の経営者による経営者のためのもの」でした。
このような企業主導のマーケティングに欠けていたもの、例えば社会的利益の追求や消費者の保護、あるいは自然環境への配慮といったものなどを含めてマーケティングを捉えなおそうという動きが全世界で高まったのが、ソーシャル・マーケティングへの転換期―1970年代を中心とした約20年間です。
日本で消費者保護基本法が施行されたのもこの時代で、1968年のことでした(その後2004年に、消費者基本法として改正され、現在に至っています)。
消費者の安心・安全に貢献できる企業が繁栄できる社会基盤を築こうという世界的な機運と合流し、統合されることによって、マーケティングは人類全体が恒久的な共存共栄を目指す、より大きな概念になったのです。
個々の企業の利益を確保する手段としてのマーケティングから、社会全体の利益を確保する手段としてのマーケティングへパラダイム転換が起きたのです。
マーケティングの2つの原則
- 市場を事業者みずからが開拓し、成熟させていくための活動であること(能動性)
- 長期的視点を含み、人間社会全体の利益最大化に繋がる活動であること(全体性)
およそマーケティングと呼ばれる活動のすべては、上記2つの原則を満たしている必要があります。
能動性とは、企業自らが活動するということです。単に市場調査や分析をしただけではマーケティングの能動性の原則をみたしません。
市場のニーズを捉え、ニーズを超越する価値を持つ製品やサービスを開発し、創造的な方法で宣伝し、消費者へデリバーするサプライチェーンを構築する。
顧客との関係性を発展させ、ステークホルダーとWin Winの関係を築く。
企業自らが能動的にアクションを起こす必要があるのです。
一方で、マーケティングには人間社会全体の利益を最大化させることも求められています。単に企業の利益の最大化を追求するのではなく、消費者の利益、従業員の利益、取引先の利益、株主の利益、地域社会の利益、国家の利益、世界の利益の最大化を、可能な限りそれぞれ追及することが求められています。
今日の企業は、自らのサステナビリティ(持続可能性)を追求するとともに、自然環境のサステナビリティや、地球全体のサステナビリティを確保することも求められています。マーケティングの全体性の原則は、今後すべての企業により強く求められてくるでしょう。
消費者はもはや、弱者ではない
1970年代前後における、消費者保護の理念を確立しようと国際社会が奮起した時代と現代とでは、事業者に対する消費者の立場が相当変化してきているようです。
1970年代より前に存在していた『弱者』としての消費者は、現代先進国にはもはや存在しません。今、世の多くのマーケッターが相手にしているのは、『ネットワーク化したプロの顧客』という『強者』の存在なのです。
アルビン・トフラーというアメリカの未来学者が、1980年頃に未来の消費者の姿を予見した『生産消費者』という概念を提示しました。生産消費者(プロシューマ・prosumer)とは、生産者(producer)と消費者(consumer)をかけ合わせた造語ですが、情報社会の発達の先には、専門性を手に入れた一部の顧客が生産者の役割をも果たすプロフェッショナルユーザになっていく、という予言じみた言葉でした。
ところが、事実はどうでしょう。
人類文明の進歩は、当時のトフラーの予言を遥かに上回る強い消費者を作り出しました。インターネットや検索テクノロジー、あるいはソーシャルメディアやモバイルコンピューティングの普及などにより、今や顧客の『誰もが』プロ並みの高度で豊富な知識を持つことができます。
そればかりか既存ユーザも見込み顧客も、知識が豊富なセミプロも、場合によっては業界内部に通じた本物のプロまでもがバーチャルな人脈を世界規模で形成し、いち顧客の意思決定を(概ね善意のもとに)支援することなどが行われているのです。まさかそんな時代が来ようとは、トフラーほどの碩学の人をもってしても見通すことができなかったようです。私たちはどうやら、先人の予測した未来の遥か先まで来てしまったのでしょう。
顧客はこうしてプロ顧客になった
三谷宏治(出版当時アクセンチュアの経営コンサルタント)は著書の中で、顧客のプロ化について下記の3つの観点にまとめています。それによると、「現代の顧客は知識においても、その処理能力においても、事業者側を凌駕しつつある」とのこと。
なお、同書は2003年に出版された書籍です。2021年の今、顧客は事業者を完全に、そして圧倒的に凌駕する存在になっています。
1.情報収集の高度化
2.相談相手の高度化
3.分析・検討の高度化
引用:『crmマーケティング戦略[顧客と共に]』(2003・東洋経済新報社・三谷宏治)
改めて、企業と顧客との間に存在する情報格差を利用して顧客から利益を搾取するようなマーケティング戦略―『顧客をうまくだまして儲けを出すスタイル』は、もはや通用しない時代だということがわかります。
この顧客のプロ化に対応し、先進的な取り組みを行ってきた企業には、情報にフタをするのではなく、逆に顧客に情報をどんどん与えることで顧客のプロ化を促進する施策が多く見られます。
顧客にどのような情報を与え、どのようにファンになってもらい、どのような価値を一緒に創造し、どのようなパートナーシップを構築していくのかということを考え抜いた先に、現代の企業のマーケティングの最適解があるはずです。
マーケティングとは『能動性と全体性を備えた市場開拓のための戦略』であると前項で定義しました。その戦略を実行していくためには、ネットワーク化された現代の社会インフラを適切に活用することが求められます。
顧客が社会インフラを活用して『プロ顧客』にトランスフォームしたように、企業も同等かそれ以上に社会インフラを活用して『プロ企業』になることが求められているのです。
文・デファクトコミュニケーションズblog編集部
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