日本における個人金融資産は、年内にも2,000兆円に近づく勢いで拡大しています。金融資産が初めて1,000兆円を突破したのは1990年のこと。それから約30年で倍増したことになります。
ただ、その内訳は、半分以上が現金・貯金が占め、国際比較でも、依然として強い安全志向がうかがえます。
それだけに、見方を変えれば、金融機関にとっては未開のフロンティアが広がっていることを意味しますが、そう簡単にはいかないのが実情です。
そこで今回は、金融機関を取り巻く状況を踏まえ、消費者意識を変えるために、コンテンツマーケティングで何ができるのか、他社の事例も含め、考察してみました。
この記事の目次
日本の金融業界におけるコンテンツマーケティング
金融業界においても、その存在感は年々高まるコンテンツマーケティングですが、他の業界のそれとは性質が異なります。
日本人の金融リテラシーの低さと、金融庁などの監督官庁によるガイドラインの強化など、越えなければならないハードルがいくつかあります。
日本人の金融リテラシーの低さ
「貯金大国・日本」などと呼ばれて久しいですが、実際の数値では、米国と比較してどれだけの差があるか、確認しておきましょう。
日本銀行調査統計局が2021年8月に公表した、「資金循環の日米欧比較」※1の中にある、家計の金融資産構成を見るとはっきり分かります。
日本は、総金融資産合計1,946兆円のうち、「現金・預金」が54.3%を占め、「資信託」4.3%、「株式等」10.0%、「保険・年金・定型保証」が27.4%という構成になっています。
これに対し米国は、総金融資産合計109.6兆ドルに対し、「現金・貯金」が13.3%、「投資信託」13.2%、「株式等」37.8%、「保険・年金・定型保証」が29.0%という内訳でした。
これを見ても分かる通り、日本では、総金融資産の半分以上が現金・貯金に回り、米国に比べれば、株式、投資信託、保険等の投資への関心が薄いことがうかがえます。
一方、米国の投資信託及び株式等への投資割合は50.0%と、日本の14.3%と比較すると高い水準を示しています。
元々日本では、「お金」に関する話は、公の場で交わすことをタブー視する傾向がありました。「株でいくら設けた」などの話題は、公言すること自体、軽蔑の対象とされた風潮があったものです。その意識が変わり始めたのは、戦後、経済成長を経て1980年代後半にかけてです。「投資」と「投機」とは明確に区別され、「個人投資家」なる存在が現れ、一部の資産家のみに限られていた金融商品の売買は市民権を得て、一気に拡大しました。
とは言え、「金融」という言葉に、アレルギーを持つ方々は、未だに多くいらっしゃるようです。
「金融リテラシー」という言葉をご存知でしょうか。
「リテラシー=Literacy」とは、文章を読み解き理解する能力のことであり、金融リテラシーとは、金融に関する情報や知識を正しく理解し、判断できる能力を指します。
金融庁では、2012年11月、有識者・関係省庁、関係団体をメンバーとする「金融経済教育委員会」を設置。将来の金融経済教育について検討し、2013年4月に報告書を発表しました。その中で、「生活スキルとして、最低限身に付けるべき金融リテラシー」という考え方が示されたのです。
「最低限身に付けるべき金融リテラシー」とは、「家計管理」、「生活設計」、「金融知識及び金融経済事情の理解と、適切な金融商品の利用選択」、「外部の知見の適切な活用」の4つで構成されています。
では何のために、金融リテラシーが必要なのでしょうか。
金融広報中央委員会の情報サイト「知るポルト」※2では、以下のように述べています。
「国民1人1人が、より自立的で安心かつ豊かな生活を実現するため」。
現代生活において、金融との関わりは避けられず、生活スキルとして金融リテラシーを身に付ける必要性を説いています。国民1人1人の金融リテラシーが向上することにより、家計金融資産の有効活用が促され、ひいては質の高い金融商品の売買が活発に行われるようになる、と結論付けています。
※1日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」(2021年8月公表)
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf
※2金融広報中央委員会情報サイト「知るポルト」
https://www.shiruporuto.jp/public/knowledge/assets/
監督官庁によるガイドラインの強化
金融分野の規制緩和により、消費者を取り巻く金融環境は著しく変化し、金融商品の種類や販売ルートは拡大しました。それに伴い、難解な金融商品や取引きが増え、トラブルが多発する事態となったことも事実です。
そのような状況で、投資性のある金融商品の取引きにおいて、消費者の保護と公正な市場の確保という観点から、2007年に金融商品取引法は成立したのです。
同法律により、これまでバラバラだった法体系を横断的にまとめ、規制のすき間からこぼれ落ちていた金融商品を無くすことが求められました。
まず、金融商品を扱う業者は全て、「金融商品取引業」に分類され、内閣総理大臣に申請・登録した業者のみが業務を許されたのです。
次に、金融商品の宣伝・勧誘・販売の現場においても、業者の行為に課されるルールの強化が図られました。
広告であれば、原本割れなどのリスクや、手数料の明確な表示が義務付けられました。
勧誘・販売・契約の場面では、以下のように規制が強化されました。
・適合性の原則
その人物に合った金融商品を、勧誘・販売すること。
・書面交付義務
その金融商品の仕組み、コスト、リスクが分かりやすく記載された書面を取り交わすこと。
・禁止行為
不招請勧誘の禁止、再勧誘の禁止、断定的判断の提供の禁止、虚偽の説明の禁止。
・損失補てんの禁止
その金融商品の取引きにより、相手に生じた損失の補てんの禁止。
さらには、個人、法人を問わず、以下の取引き違反は、刑罰や課徴金を科す対象となりました。
・風説の流布、相場操作などの行為。
・有価証券取引所の提出拒否、インサイダー取引き。
市場操作を企んで、虚偽の情報をインターネットに流したり、株価に影響を与えそうな未公開情報を入手し、株の売買差益を得ようとするインサイダー取引きは、個人であっても刑罰が科されることになりました。
金融商品は扱う金額によっては、利用者に多大な不利益をもたらすこともあり、他の業界よりも入念な規制の強化が図られたのです。
上記のように、日本人の資産形成に対する意識に低さと、金融庁による「縛り」により、金融機関が一般消費者へ積極的に働きかけ、活発な市場を形成することは容易ではありません。
金融機関がコンテンツマーケティング施策を成功させるポイント
上記のように、他業界とは異なり、消費者に対して積極的に働きかけ、市場を活発化していくことが難しい金融業界。コンテンツマーケティングを展開する上でも、特殊な手法が必要になってきます。
ただその前に、コンテンツマーケティングがどのような施策であるかを見極め、金融機関が成果を上げるにはどこにポイントを置くべきか、学んでおきましょう。
コンテンツマーケティングの本質を知る
2015年頃、日本のマーケティング業界では、「コンテンツマーケティング」という言葉が使われ始め、当初は、SEOの効果を高める一手法ぐらいの認識でしかありませんでした。
コンテンツマーケティングの第一人者であるジョー・ビューリッチ氏は、コンテンツマーケティングを、以下のように定義しています。
「コンテンツマーケティングとは、自社が明確に顧客と位置付けるユーザーを引きつけて維持し、最終的には収益性の高い購買行動を促すマーケティング手法です。そのためには、ユーザーにとって価値があり、関連性があり、一貫性のあるコンテンツを、作成・配布することに焦点を当て、戦略的にアプローチを図る必要があります」。
自社製品やサービスを一方的に売り込むのではなく、見込み客が抱える問題を解決するため、関連性があり、有用なコンテンツを提供すること。これが、コンテンツマーケティングの本質です。
金融機関とコンテンツマーケティングとの親和性は高い
前述したように、日本人は、資産形成に対する関心が薄く、お金について語ることを時としてタブー視する傾向があります。そのような消費者に対し、金融機関はオウンドメディアにおいて、どのようなコンテンツを発信するべきでしょうか。
その答えが、先に触れたコンテンツマーケティングの定義の中に隠れています。
「ユーザーにとって価値があり、関連性があり、一貫性のあるコンテンツを、作成・配布することに焦点を当て、戦略的にアプローチを図る必要があります」。
企業にとっての消費者は、三段階に分類できます。
今は自社と何の接点もなく、自社製品・サービスにもとくに関心を持たない「潜在顧客」。
次にある分野及び、商品には何となく関心はあるが、将来、ひょっとしたら自社の商品を購入してくれるかもしれない「見込み顧客=リード」。
最後に、自社製品・サービスの購入に意欲を示し、具体的に自社に対し、どのような満足感を求めるのか、はっきりと自覚している「ホットリード」。
コンテンツマーケティングを実践する上で、コンテンツを届ける相手がどの段階にいるか、見定めることが非常に重要になります。
これを金融業界に当てはめて、考えてみましょう。
お金というものは、人生のあらゆる場面について回るものですが、普段はあまり意識されません。結婚や出産、家の購入、あるいは定年退職など、各ライフステージに直面した時、改めてお金について思いを馳せる方がほとんどではないでしょうか。
「資産運用」や「資産形成」には、あまり関心を示さない「金融リテラシーの低い層」が、金融機関にとっての潜在顧客ということになります。
そういう方たちが、ローンを組むために口座開設を検討したり、出産・子育てを見据えて、保険の見直しや株式・投資信託を考えていれば、その段階で彼らは見込み顧客へと変化したことになります。
さらに、自社の扱う金融商品に関心を示して、資料請求やセミナーに参加するなど、自ら行動を起こすようになればホットリードへと昇華したと言えるでしょう。
コンテンツマーケティングでは、潜在顧客を多く獲得し、提供するコンテンツによりリードに育てることを「リードナーチャリング」と呼びます。リードに育てることで、自社への興味を引き出し、さらには「このサイトに訪問すれば、何か有益な情報が得られる」と思わせることができればしめたものです。自社への信頼感を醸成し、あと一押しで購買行動に踏み切る顧客へと引き上げること。ここまでが、コンテンツマーケティングの役割です。
消費者のお金に対する意識を高めることを、しばしば「啓蒙活動」などと称しますが、上述のコンテンツマーケティングの役割と似ていないでしょうか。金融機関が消費者意識を変える啓蒙活動と、コンテンツマーケティング施策には共通項があります。1つは、ターゲットが誰かを見極め、ステージごとにコンテンツを用意する必要があること。もう1つは、効果が実感できるまでには、ある程度の時間を要する、ということです。
このことから見ても、金融機関とコンテンツマーケティング施策は、非常に相性が良いと言えるでしょう。
他社に見るコンテンツマーケティング成功事例
では実際に、金融機関がどのようにコンテンツマーケティングに取り組んでいるのか、事例をご紹介しましょう。この中には、具体的に読者をどんなコンテンツで引き付けているのか、示唆に富んだポイントが見えてくるでしょう。
「保険見直しOnline」
保険代理業を基幹事業としている、株式会社フィナンシャル・エージェンシーが運営しているサイト。
ブログ記事は、「保険の基本」、「けが・病気」、「損害・災害」、「結婚・子育て」、「老後・相続」、「運用・税金」などのカテゴリーに分類されています。人生のライフステージにおいて、誰もが直面する事態を想定し、その時に必要な保険商品を分かりやすく解説。「持病がある人のための医療保険の選び方」、「何歳から備えるべき?がん保険や医療保険加入のタイミング」など、幅広いジャンルを取り上げ、身近な保険商品について説明しています。
◯「保険見直しOnline」
https://hoken-minaoshi.online/
「確定拠出年金スタートクラブ」
株式会社りそな銀行が運営する、確定拠出型年金(iDeCo)に関する情報を発信しているサイト。主な読者を確定拠出型年金の初心者と仮定し、「確定拠出型年金とは?」、「確定拠出型年金の基礎知識」、「確定拠出型年金の商品」、「資産運用・資産形成」など、各カテゴリーに分類し、それぞれ分かりやすい表現で、詳細に解説しています。
ブログ記事は、「初心者向けコンテンツ」、「女性向けコンテンツ」、「公務員向けコンテンツ」というように、想定読者を分け、それぞれの立場に適した内容が掲載されています。
会員登録すると、確定拠出型年金に関する情報や、会員限定のコンテンツを入手できるようになっています。
◯「確定拠出年金スタートクラブ」
https://dc-startclub.com/
「日興フロッギー」
SMBC日興証券株式会社が運営している、株の知識に疎い若年層から参加できるオウンドメディアです。イラストや漫画を多用し、親しみやすさを演出。金融に関する疑問にも、分かりやすく回答しています。記事では、株や上場投資信託(ETF)などの基礎知識を簡易に解説することにより、初心者の金融商品への興味を醸成しています。読者は基礎的な個人情報を入力してログインし、記事を読むだけでdポイントを獲得することが可能。サイト運営側は、読者の属性を把握し、口座開設まで誘導することを目的としています。
さらには、最新のマーケット情報や、週ごとのおすすめ銘柄などが掲載されており、関心のある方は口座開設から、そのまま株式や投資信託の売買を始められるよう、サイト内の動線にも配慮が為されています。
◯「日興フロッギー」
https://froggy.smbcnikko.co.jp/
まとめ:コンテンツ作成には、金融に特化したライターとの協業を意識する
日本人の金融リテラシーの低さや、お金に対する意識を変えるには、コンテンツマーケティングは格好の手法と言えるでしょう。
金融機関とコンテンツマーケティングとの相性は良く、うまく活用すれば、目に見える効果も期待できます。
ただし、扱う商品が金融商品であることから、監督官庁の見る目は厳しく、コンテンツの制作にあたっては、細心の注意を払う必要があります。
金融商品というのは専門性が高く、ブログ記事などは、社内に在籍するベテランの営業担当者に任せる傾向が見られます。しかしこれは、あまりお薦めできません。
なぜなら、サイトを訪れる読者は、金融初心者も多く含まれており、専門性の強い硬い文章では最後まで読まれずに、容易にサイトから離脱されてしまうからです。「読ませる文章」とは、一定のスキルが必要であり、ストーリー性を重視した構成が望まれます。
では、外部のライターを雇い、コンテンツ作成を丸投げすればよいか、といえばそれも「NO」です。
上で述べたように、金融機関の広告・勧誘、販売に関する行為には、厳しい規制が張りめぐらされています。コンテンツの制作においても、事実に反する内容や、不適切な表現が含まれていると、金融商品取引法や金融商品販売法に抵触する恐れもあります。
それを防ぐには、金融に特化したライターに執筆を頼むか、少なくとも、専門家に監修してもらえる体制を整えている会社を選ぶべきでしょう。
弊社では、「読ませるコンテンツ作りの経験値」と、「信頼性・正確性を担保する知識」とを兼ね備えた金融ライターとの協業により、最適なコンテンツ制作を実現します。
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