企業のマーケティングに携わっておられる方であれば、「コンテンツマーケティング」という言葉はご存知でしょう。この手法が認知され始めたのは、ここ5、6年のことですが、その意味を正しく理解し、実践されている方はどれだけおられるでしょうか?
本稿では、コンテンツマーケティングの定義や目的に触れ、どのような手法であるかを解説します。また併せて、金融業界において、既に同手法を有効活用している事例をご紹介します。
この記事の目次
そもそもコンテンツマーケティングとは?
もはやマーケティング業界では、日常会話で交わされる「コンテンツマーケティング」という用語ですが、どの程度の人がその意味を正しく理解しているでしょうか。
ここでは、まずコンテンツマーケティングの定義と目的について、簡単に見ておきましょう。
コンテンツマーケティングの定義
日本のマーケティング関係者の間で、「コンテンツマーケティング」という言葉が使われ始めたのは、2015年頃でした。当時は、自社サイトにビジネス関連のブログ記事を載せる程度で、SEOの効果を高める一手法ぐらいの認識でした。
コンテンツマーケティングを世に広めてきた一人、ジョー・ビューリッチ氏は、コンテンツマーケティング・インスティテュートの創始者です。彼は、コンテンツマーケティングの定義について次のように述べています。
「コンテンツマーケティングとは、自社が明確に顧客と位置付けるユーザーを引きつけて維持し、最終的には収益性の高い購買行動を促すマーケティング手法です。そのためには、ユーザーにとって価値があり、関連性があり、一貫性のあるコンテンツを、作成・配布することに焦点を当て、戦略的にアプローチを図る必要があります。」
自社製品やサービスを一方的に売り込む代わりに、見込み客が抱える問題を解決するため、関連性があり、有用なコンテンツを提供すること。これが、コンテンツマーケティングの本質です。
コンテンツマーケティングの目的
コンテンツマーケティングは、マーケティング手法の一つであり、マーケティングとは、「企業が顧客と良好な関係を築き、顧客が自社の製品やサービスを購入し続ける仕組み」を作ることです。マーケティング関連の仕事に身を置く方であれば、「優良顧客」という言葉はご存知でしょう。
自社製品・サービスの機能や良さを理解し、対価を支払って購入し続けてくれる、「お得意様」とも呼ばれるありがたい存在です。
この優良顧客を多く獲得することは、企業が存続する上で至上命題とも言えるでしょう。しかし、消費者が購買行動を起こすには、幾つかの段階を経ることが必要です。たまたま自社製品を知り、興味を持ち、試しに購入して気に入り、次も買いたいと思う。このサイクルを繰り返すことにより、見込み客(リード)を優良顧客へと「育てていく」のです。この一連の流れを、マーケティング用語で「リードナーチャリング」と言います。それには、自社製品・サービスを売り込む代わりに、リードが関心を持ちそうなコンテンツを継続して提供し、自社に興味を抱いてもらうことが、初めの一歩となるのです。
コンテンツマーケティングの先進国でもあるアメリカでは、シスコシステムズやマイクロソフト、P&G(プロクターアンドギャンブル)など、世界的な大企業が、コンテンツマーケティングを積極的に活用しています。これらの企業は、コンテンツマーケティングを利用する理由として、売り上げ数値の増加、コストの削減とともに、「企業に忠誠心を抱く良好な顧客の獲得」を挙げています。自社に好感を持ち、そこから徐々に製品・サービスに目を向けてもらい、最終的には、購買行動にまで繋げること。これこそが、コンテンツマーケティングの目的と言えるでしょう。
コンテンツマーケティングの成功事例10選 金融業界編
ではここからは、実際にコンテンツマーケティングを実践し、一定の効果を上げている企業の事例をご紹介しましょう。今回は、金融業界編です。
「確定拠出年金スタートクラブ」
株式会社りそな銀行が運営している、確定拠出型年金(iDeCo)に関する情報を発信しているサイトです。主な読者を確定拠出型年金の初心者と想定し、「確定拠出型年金とは?」、「確定拠出型年金の基礎知識」、「確定拠出型年金の商品」、「資産運用・資産形成」などにカテゴリーを分け、それぞれ分かりやすく解説しています。
ブログ記事は、「初心者向けコンテンツ」、「女性向けコンテンツ」、「公務員向けコンテンツ」に分かれており、それぞれの立場に密着した内容が充実しています。
・「初心者向けコンテンツ」
人生のライフステージごとに、一体いくらかかるのか、モデルケースを参考に必要額を算出し、資金確保手段の一つとして、確定拠出型年金に関心を持ってもらうことを目的としています。
・「女性向けコンテンツ」
同社のプロダクトマネージャーと、著名な作家との対談を企画。家事とお金に意識の高い女性に向けて、「家事と投資」にまつわる話題を取り上げています。
・「公務員向けコンテンツ」
「もしも『踊る大捜査線』の青島俊作と室井慎次がiDeCoに加入したら?」など、楽しみながら、確定拠出型年金への理解を深められるよう、記事にも工夫がこらされています。
会員登録すると、確定拠出型年金に関する情報や、会員限定のコンテンツを入手できるよいになっています。
◯「確定拠出年金スタートクラブ」
https://dc-startclub.com/
「常陽銀行 女性のお客様サービス」
株式会社常陽銀行が運用している、女性の顧客向けに、金融に関する情報を配信しています。
「窓口になかなか来られない忙しい女性にも、当行のサービスを広く知ってもらいたい」との思いから実現したのが、施策の一つである、女性向けの専用サイト「J-Palette」です。同サイトでは、就職、結婚、出産、住宅購入という4つのライフイベントに応じ、自社商品の案内や、お金に関した情報をコンテンツとして発信しています。
・「マネーお役立ちコラム」
「親の体調変化に気付いたら―介護にかかるお金や支援制度―」や、「カードローンに審査は必要?審査のポイントとご利用までの流れを解説」など、誰もが関心を持つトピックを取り上げ、コラムを掲載しています。
◯「常陽銀行 女性のお客様サービス」
https://www.joyobank.co.jp/woman/
「d-labo」
神奈川県及び静岡県を拠点とする、スルガ銀行株式会社が運営するサイトです。
同社が推進する「Dバンク支店」の普通預金、「スマ口座」の開設を促すため、魅力的なコンテンツを掲載。自らのライフスタイルを見つめ、「人生をもっと自由に楽しみたい」と前向きに生きる人を応援する話題を取り上げています。
・「特集記事」
「平塚発 世界が欲しがるサイクルキャップCyclone 伊達 千鶴 氏」や、「初心者必見! クロスバイクに乗って、沼津エリアを思いきり楽しもう!」など、地方で自身の夢に真剣に取り組む人々を取材し、併せてその地域の魅力を発信しています。
・「イベントリポート」
「日本の行事を食卓から~テーブルコーディネートから学ぶ四季~」、「顔ヨガレッスン~ハッピーフェイスで幸せを呼び込もう~」など、各界のエキスパートを招いて講座を開き、その模様を興味深く伝えています。
◯「d-labo」
https://www.surugabank.co.jp/d-bank/d-labo/
「ライフネットジャーナル」
ライフネット生命株式会社が運営する、「人生とお金について考えるメディア」です。
保険の基礎知識に始まり、コロナ禍で収入が減少した際の対処方法、女性の身体や小さい子供に関する健康情報など、多岐にわたるトピックを扱っています。サイトのコンセプトは、「人生・仕事・お金」です。同社の取り扱う商品は生命保険であり、対象者は30代の働き盛りの世代。これから、結婚・出産・持ち家の購入など、人生の節目を迎える人達です。今は保険のことは考えていないけれど、いずれ保険ニーズが顕在化した時には、同社のことを一番初めに思い出してもらえることを目的とした、コンテンツ作りを目指しています。
◯「ライフネットジャーナル」
https://media.lifenet-seimei.co.jp/category/health/
「保険の教科書」
ファミリーコンサルティング株式会社が運営しているオウンドメディアです。
個人向けと法人向けとに、カテゴリーを分けています。個人向けには、生命保険、医療保険、がん保険、学費保険、住宅・ローン、相続など、人生の様々な局面で必要とされる保険商品にまつわるトピックが用意されています。また法人向けには、法人保険の基礎知識に始まり、法人損害保険、納税対策としてのオペレーティングリース、事業承継・計画納税、補助金・助成金など、経営者がおさえておきたい記事が満載です。各記事のページの下方には、記事に関連したEブックを無料でダウンロードできるようになっています。これによりサイト運営側は、読者の名前、メールアドレス、電話番号など、基本情報を入手できる仕組みが施されています。
◯「保険の教科書」
https://hoken-kyokasho.com/
「INNOVATION HUB」
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が展開する、「オープンイノベーション」を広く知らしめるためのサイトです。
MUFGは、2015年に邦銀初のスタートアップアクセラレータ・プログラムである、「MUFG Digital アクセラレータ」を設立。MUFGとスタートアップ企業が、4カ月という短期間で、フィンテック領域や、AI・ブロックチェーン・IOTなどの先端技術領域において、一つのビジネスを完成させるというコンセプトのもと、事業開発・連携を模索していく活動です。
記事では、4カ月間の成果を、スタートアップ企業5社がプレゼンする、「DEMO DAY」の様子を披露。MUFGと共同で、新しいサービスを生み出すことに意欲的な起業家に向けて、積極的な情報発信に努めています。
◯「INNOVATION HUB」
https://www.mufg.jp/profile/strategy/dx/index.html
「日興フロッギー」
SMBC日興証券株式会社が運営している、株の初心者で若年層向けのオウンドメディアです。かえるのキャラクター「かえるくん」を採用することで、親しみやすさを演出。イラストや漫画を多用し、金融に関する疑問に分かりやすく回答しています。記事では、株や上場投資信託(ETF)などの基礎知識を簡易に解説することにより、初心者の金融商品への興味を醸成しています。読者は基礎情報を入力してログインし、記事を読むだけでdポイントを獲得することが可能。サイト運営側は、読者の属性を把握し、さらに口座開設まで誘導することを目標にしています。
◯「日興フロッギー」
https://froggy.smbcnikko.co.jp/
「ARUHIマガジン」
住宅ローンに特化した金融商品を提供する、アルヒ株式会社が運営するオウンドメディアです。読者層のターゲットは、住宅購入希望者や、ローン借り換えを考えている人を想定。記事の内容を、「住まい」、「お金」、「暮らし」の3つのカテゴリーに分類しています。
・「住まい」
住宅購入者のリアル体験や、リフォーム・リノベーション、DIY、インテリアに関しての気になる情報をまとめています。
・「お金」
住宅ローンの金利タイプ別の選び方や、借入額シミュレーション、住宅ローン控除・保険、「フラット35」といった、住まいにまつわるお金の話題を中心に取り上げ、フィナンシャルプランナーの解説も加えて、読者の抱える疑問に答えています。
・「暮らし」
子育てや退職後の生活など、ライフステージに応じたお役立ち情報を掲載しています。また、「コロナ禍の幸福度に影響 カギは『おうち時間の工夫』と『家族と過ごす時間』」や、「暖房はつけたまま喚起が正解! 室内を暖めつつ効率的に喚起する方法を開設」など、新型コロナウィルスの感染拡大による生活の変化と、その対処法について詳しく紹介していて、タイムリーな話題を多く掲載している点も出色と言えるでしょう。
◯「ARUHIマガジン」
https://magazine.aruhi-corp.co.jp/
「保険見直しOnline」
保険代理業を主な事業としている、株式会社フィナンシャル・エージェンシーが運営しているサイトです。
記事は、「保険の基本」、「けが・病気」、「損害・災害」、「結婚・子育て」、「老後・相続」、「運用・税金」などのカテゴリーに分けられています。人生において、誰もが直面するであろう事態に備え、その都度、必要な保険商品を分かりやすく解説しています。「テレマティクス保険」といった、あまり馴染のない保険の情報や、「持病がある人のための医療保険の選び方」、あるいは「何歳から備えるべき?がん保険や医療保険加入のタイミング」など、身近な保険商品についての説明まで、幅広いジャンルを取り上げているのが特徴です。
◯「保険見直しOnline」
https://hoken-minaoshi.online/
「MONEY PLUS」
会計ソフトや家計簿アプリを手掛ける、株式会社マネーフォワードが運営するオウンドメディアです。お金に関するあらゆるトピックを、バランスよく掲載しています。
「ホットケーキミックスでコーンウィンナーの『ご馳走ちぎりパン』」や、「焼きそば麺が余った時に『焼きそばカルボナーラ』アレンジ」といった、お金をかけずに日々の食生活を豊かにする話題や、読者からの家計や保険、ローンについての悩みにフィナンシャルプランナーが解答するコーナーなど、記事の内容は多岐に渡ります。また、不動産投資や資産形成セミナーなど、無料の各種ウェビナーへの参加も呼びかけています。さらには、「Market Plus」では、大和証券投資情報発信部が個人投資家向けに、タイムリーな投資情報を発信しているのも特徴です。
記事の豊富さ、ジャンルの広さなどから分かるように、読者にあらゆる側面から働きかけることにより、マネーに関心を持たせ、金融商品に目を向けてもらうことが目的のようです。
◯「MONEY PLUS」
https://media.moneyforward.com/
まとめ:金融業界ではコンテンツマーケティングを有効活用するべき
今回は、マーケティング業界ではもはや定番の、「コンテンツマーケティング」について解説しました。
コンテンツマーケティングは、自社がターゲットとする顧客に向けて、価値のある情報を、継続して作成・発信することから始まります。そうすることで、見込み客に自社への関心を持ってもらい、最終的には自社製品・サービスの購買行動にまで繋げるマーケティング手法です。自社製品やサービスを一方的に売り込むのではなく、見込み客が抱える問題を解決するべく、関連性があり、有用なコンテンツを提供すること。これが、コンテンツマーケティングを行う上で、一番重要な点です。
日本の社会では、一般の消費者の中には、「金融商品は手の出しにくいもの」という意識を抱く方が多いように見受けます。また、リスクが付き物というイメージから、投資に対するアレルギーを持つ向きも見られます。
日本では昔から、個人資産を増やす「殖産」という考え方に、抵抗感を示す風潮があったことは否めません。学校で投資に関する教育を実践する欧米に比べて、日本における金融リテラシーは低いと言わざるを得ません。そのような土壌で、消費者の資産形成への意識を変えるには、コンテンツマーケティングは格好の武器となるのです。
金融業界では、金融商品に対する垣根を取り除くこと重視して、コンテンツマーケティングを有効活用しています。この記事では、10社の事例をご紹介しました。いずれも、コンテンツマーケティングの本質を活かし、効果を上げている好例です。これからコンテンツマーケティングに着手しようとお考えの方は、是非、参考になさってください。
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