この記事をご覧になっている方々の中には、中小企業の経営者もいらっしゃることでしょう。「御社のブランド戦略とは、何でしょう?」この質問に明確に答えられる方は、何人いらっしゃるでしょうか。「ブランドなんて、大企業のものだろう。わが社のような中小企業は資金も人材も、ブランド作りに割く余裕はないよ。」もし本当にそう思われるなら、ブランドに対する認識を改めてください。中小企業にとって、ブランディングがいかに重要なものか、ご説明しましょう。
この記事の目次
ブランドの重要性:iPhoneの事例
消費者が、ある商品やサービスを購入しようとするとき、どのような理由があるでしょうか。消費者の購買動機を左右する、要因の1つが「価格」です。商品に設定された価格が高いか安いか、または適正かによって、購買の判断が下されます。消費者は、その商品の値段が高いと感じたら、購入をためらうでしょう。反対に、商品の質の割に値段が安いと思えば、買う気が起こるのではないですか。それならば、安ければいいかというと、あながちそうとも言い切れません。「良い商品を安く」提供するというのは、商売の基本ではありますが、例外もあります。その最たるものが、「ブランド」です。ブランド品は、価格を安く設定するとかえって売れなくなってしまいます。高価で購入することが、高級感を醸成し、消費者は高級品を買うことで、「他者とは違う」という優越感に浸ることができるのです。
一般的にブランドと言うと、商品の名称や社名、商標など、形のないシンボルマークのようなものを思い浮かべる方がほとんどではないでしょうか。ただ昨今では、このシンボルマークが消費者の購買心理に、大きな影響を及ぼすことが分かってきました。そして、ブランドは利益に直接関与するもの、という考えが広まり、「ブランド価値=資産」というコンセプトが生まれました。
このブランド資産というコンセプトを、実践している好例をご紹介しましょう。
「iPhone」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。
多くの方はあのリンゴマークや、スマホのシンプルなデザインが頭に浮かぶのではないでしょうか。また一度でも製品やサービスを利用したことのある人は、製品機能や代理店での対応ぶりなどを思い出すかもしれません。
このようにブランドは消費者に対し、色々なイメージを想起させ、消費行動にも大きな影響を与えます。逆に言うと、ブランドの価値を意識したブランディングに成功すれば、ブランド自体が利益を生み出す構造を築くことができるのです。 ブランドの価値を高めるためには、消費者の立場に立ち、下記の4つの要件を満たすことが重要です。
1.ブランドの認知度
「Apple」と聞いた人は、iPhoneやiPadを開発・販売している会社、と頭に浮かぶはずで、これを認知と呼びます。初めてスマートフォンを買おうと考えている方に、「スマートフォンと言えばiPhone」という連想をさせることができれば、他社に比べて大きなアドバンテージとなるでしょう。
2.ブランドのイメージ
スマートフォンから何となくiPhoneを思い起こさせるだけでは、まだ結びつきとしては弱いですね。そこを1歩踏み込んで、消費者に具体的なイメージを抱かせるのがブランドイメージにあたります。ブランドイメージが高じると、購買心理に働き替えるきっかけにもなるでしょう。
3.知覚品質
マーケティングには、「知覚品質」という考え方があります。これは、自社のブランドに対して、生活者が認識している品質を指します。ただ単に、製品の機能や性能を指すのではなく、サービスや雰囲気、信頼性などが含まれます。知覚品質が向上すると、ブランドに対する消費者の評価が高まるのです。「iPhoneが使いやすい、との評判を聞いて使用してみたが、本当だった」というように、ブランドイメージと実際に商品を利用して得た実感とが一致した時、知覚品質が高まるのです。
4.ブランドロイヤリティ
上記3つの要素を全て満たすことで、iPhoneあるいはAppleというブランドに対する愛着がわくことになります。それによって、消費者に再購入という行動を取らせることにも繋がります。
ブランド力は全ての企業にとって重要
ではここからは、ブランドとは何か、その重要性について説明しましょう。
ブランドを作ると、企業は他社との差別化を図ることができます。市場に同じような製品が2つ投入されているとしましょう。似たような商品でも、ブランドがついているだけで他社の倍の価格設定がなされていることがあります。それはブランドが、これまでに培ってきた信頼感や安心感をアピールすることで、消費者に商品の品質の高さを認識させることができるからです。
消費者が初めての商品を購入しようとするとき、何がしかの不安を抱くものです。しかし、商品にブランドがついていれば、消費者の不安を払拭することができます。なぜこのような効果が期待できるのでしょう。それは、ブランドの本質と関係があります。ブランドとは、「この会社の商品を買えば、必ず満足感が得られる」という、企業が顧客に対して結ぶ約束にほかなりません。もし一度でも企業がその約束を破れば、ブランドに傷がつき、その企業や商品の評価は地に落ちるでしょう。だからこそ企業は、自社ブランドへの信頼を裏切るまいと、最大の注意を払うのです。企業が自社のブランドを付加して売ろうとしている商品は、その企業の自信のあらわれといえるでしょう。それゆえに、消費者はブランド商品を購入するのです。そして一旦、「この商品なら、この会社」という刷り込みが完了すれば、その消費者はその会社のブランド商品を買い続ける、「ごひいき筋」という存在へ昇華することになるのです。
中小企業はブランディングに注力するべき
自社ブランドの構築は、大企業か中小企業かを問わず、全ての企業にとって喫緊の課題と言えるでしょう。ただこれまでは、大企業に比べて中小企業は、「ブランド弱者」と呼ばれてきました。それは大企業がグローバルで通用する、強力なブランドを持っているのに比べ、中小企業は自社ブランドの知名度や認知度が極端に低いからです。
中小企業は、優れた機能を有し、高い品質の商品を生み出すことができるにもかかわらず、自社ブランドが一般の顧客や顧客企業に知られていないのが現状です。それゆえに、中小企業の商品は、市場においても実際の価値より低い評価を受ける傾向にあります。これは「企業価値のディスカウント現象」と呼ばれるものです。
中小企業はブランドの知名度と認知度が低いため、マーケティングやブランドを高める経営資源や人材の不足、及び資金調達にも困難な面がうかがえます。このように、中小企業独特の経営課題を解決するためにも、ブランディングは欠かせない戦略と言えるでしょう。
DELLやStarbucksなど、今や誰でも知っている強いブランドを持つ企業も、そもそも、はじめは中小企業からスタートしました。これらの企業は、それぞれの時代の急劇な変化を読み取って、新市場と産業を生み出し、優れたブランド戦略を打ち出して自社の事業を大きく飛躍させました。そして、激しい社会的・経済的な変化が、いかに消費者の欲求に影響を与えるかを常に意識し、的確に把握していました。加えて、自社ブランドが消費者に約束した利益を常に提供することで、企業の評判や信頼を勝ち得ることができたのです。
まとめ:中小企業こそ自社ブランドの構築を
企業と消費者とが交わす約束が、「ブランド」です。「この商品を買えば、必ず満足させてもらえる」という信頼と安心感が、消費者に商品を選ばせるのです。市場における認知度が今一つの中小企業ほど、自社ブランドの構築が最重要課題と言えるでしょう。
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